新民法545条1項(解除後の第三者)

新民法177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成十六年法律第百二十三号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

新民法545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。



XがAに対して土地を売却したが、代金未払いにより売買契約を解除したものの、その後、Aが事情を知らない第三者Yへと同土地を転売したため、XがYを被告として、土地の明け渡しをもとめたという事案のBDは、解除前の第三者の議論を踏まえれば、請求原因・抗弁・再抗弁までは、以下のとおりとなる。



では、解除後の第三者Yは、いかなる反論が可能か。新民法545条1項但書の「第三者」は、解除前の第三者を想定しているので適用がないので問題となる。この点、現行民法にかかる判例(最判昭和35年11月29日民集14巻13号2869頁)では、

「不動産を目的とする売買契約に基き買主のため所有権移転登記があつた後、右売買契約が
解除せられ、不動産の所有権が買主(引用者注:「売主」の誤記と思われる)に復帰した場合でも、売主は、その所有権取得の登記を了しなければ、右契約解除後において買主から不動産を取得した第三者に対し、所有権の復帰を以つて対抗し得ないのであつて、その場合、第三者が善意であると否と、右不動産につき予告登記がなされて居たと否とに拘らないことは、大審院屡次判例の趣旨とする所である。」

と判示しており、解除者と解除後の第三者とは、対抗関係に立つとされている。対抗関係に立つ第三者が、相手方の対抗要件欠缺を咎めるに際し、いかなる主張をすべきかについては、以下のとおり、諸説がある。











本稿では、上記諸説のうち、支配的な見解にある権利抗弁説を前提として、検討を進めることにする。

権利抗弁説にたつと、本件では、再抗弁として売買契約の解除の事実主張が出ているので、Yの権利抗弁(権利抗弁説で「認めない」とされている部分)を含む反論は、再々抗弁(対抗要件欠缺)に位置づけられ、これに対して、Xが対抗要件を具備した旨の再反論は、再々々抗弁(対抗要件具備)に位置づけられることになる。

また、XとYとが対抗関係に立つ場合に、Yが甲土地について所有権移転登記を具備すれば、Xが甲土地について所有権移転登記(またはXからAへの所有権移転登記の抹消登記)を得ることは不可能となるから、同事実も、上記とは別に、再々抗弁として機能することになる。


(この点、対抗要件欠缺の抗弁の方が主張する事実が少なく[権利主張部分は事実ではない]、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁については、これに「AからYへの所有権移転登記」という要素を追加した形になるため、対抗要件具備による所有権喪失の抗弁を別途観念する理由がないとの見解もあり得るが、権利主張は受訴裁判所においておこなわれるので、権利主張を裁判所でおこなったことを事実と考えれば[裁判所に顕著な事実なので認否は不要]、一応、両者は事実を異にする再々抗弁であると考えられなくもない。)



これを踏まえると、解除後の第三者についてのBDは、以下のように構成できる。



ここで、場面はかわるが、解除前の第三者のBDは、以下のとおりである。




両者を比較すると、解除後の第三者事案の再々抗弁「対抗要件具備による所有権喪失」と解除前の第三者事案の再々抗弁「解除前の第三者」とは、「上記買受はXの解除に遅れる」とある部分が「上記買受はXの解除に先立つ」となる以外は、全て共通であることがわかる。そうすると、Yが第三者となった時期が解除前であろうと解除後であろうと、いずれの場合でも、これら再々抗弁は機能することになる。よって、解除前の場合と解除後の場合とは、いずれかが満たされれば良いという要件として、整理することができる。

これを踏まえると、BDは、以下のようになる。
なお、BDでは、「解除前」と「解除後」の両要素が、「且つ(and)」の関係ではなく、「又は(or)」の関係にあることを反映し、両要素の間の線は、実線ではなく点線で示してある。



ところで、第三者が取引関係に入ったことを前提とする限り、同取引がXによる解除前か解除後かは、いずれかは必ず認められる事象である。すなわち、「解除前または解除後」というのは、要件としては意味がないことになる。このため、再々抗弁の要素のうち黄色部分の2つの事象は削除可能である。これを踏まえると、再々抗弁は、以下のように圧縮されることになる。



残された検討課題としては、この再々抗弁を、予備的抗弁として位置づけるべきかという問題があるが、上記BDは既に解除前・解除後第三者の統合BDであり、上記BDを踏まえた、選択的抗弁説や予備的抗弁説との比較検討は、新民法545条1項(解除前の第三者)(4)予備的抗弁説 でおこなっているので、本稿では省略する。



(参考文献)
・司法研修所編「改訂 紛争類型別の要件事実」法曹会120~121頁