新民法545条1項(解除前の第三者)(3)解除前の第三者の要素

新民法545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。



XがAに対して土地を売却したが、代金未払いにより売買契約を解除したものの、既に、同土地は、Aから事情を知らない第三者Yへと転売されていたため、XがYを被告として、土地の明け渡しをもとめたという事案のBDの概要は、以下のとおりである。



再々抗弁(解除前の第三者)の要素は、どうなるか。
新民法545条1項但書をみるに、解除によって影響を受けうる具体的な第三者としての権利をYが有していること、すなわち、解除前にYが何らかの利害関係を有するに至ったことが要件となっている。本件では、YはAから甲土地を買い受けたというのであるから、想定されるBDは、以下のようになる。



ここで、現行民法下での判例では、不動産の所有権の取得について対抗要件としての登記を経由していない者は、第三者として保護されないのを原則としている(合意解除に関して最判昭和58年7月5日集民139号259頁。登記の欠缺を主張することが信義則に照らし許されない場合につき最判昭和45年3月26日集民98号505頁)。同判例が新民法においても妥当すると考えた場合、BDは、以下のように修正される。



この結果、BDは、以下のようになる(信義則の主張は、本設例では無いと考えられるので記載を省略した)。



ところで、別の場面ではあるが、本稿で検討をしている「解除前の第三者」のほかに、「解除後の第三者」という場面がある。この解除後の第三者については、解除者と第三者との間は、対抗関係にあると理解されており、以下のようなBDとなっている。



両者を比較すると、解除後の第三者事案の再々抗弁「対抗要件具備による所有権喪失」と解除前の第三者事案の再々抗弁「解除前の第三者」とは、「上記買受はXの解除に遅れる」とある部分が「上記買受はXの解除に先立つ」という部分以外は、全て共通であることがわかる。そうすると、Yが解除前であろうと解除後であろうと、いずれの場合でも、これら再々抗弁は機能することになる。よって、解除前の場合と解除後の場合とは、いずれかが満たされれば良いという要件として、整理することができる。

これを踏まえると、解除前と解除後の第三者の統合BDは、以下のようになる。なお、BDでは、「解除前」と「解除後」の両要素が、「且つ(and)」の関係ではなく、「又は(or)」の関係にあることを反映し、両要素の間の線は、実線ではなく点線で示してある。統合した再々抗弁については、表題を「解除の第三者」として解除前と解除後の双方を含む表現にした。



ところで、第三者が取引関係に入ったことを前提とする限り、同取引がXによる解除前か解除後かは、いずれかは必ず認められる事象である。すなわち、「解除前または解除後」というのは、要件としては意味がないことになる。このため、再々抗弁の要素のうち黄色部分の2つの事象は削除可能である。これを踏まえると、再々抗弁は、以下のように圧縮されることになる。



以上が、単純にYの言い分を、解除前の第三者として構成したうえで、解除後の第三者の場面と統合した場合のBDである。


他方で、前掲最判昭和58年7月5日等を踏まえ、解除前の第三者と解除者との関係を対抗関係にあると理解する立場(対抗関係説)にたてば、「解除前の第三者」で主張すべき要素としては、「AからYへの所有権移転登記があった」ことまでは必ずしも必要ではなく、「Xが対抗要件を具備するまでは、Xへの所有権帰属を認めない」との権利主張をすることで足りることになる。



この場合の2つの再々抗弁をくらべると、主要要素は共通であるが、
  • 上側のものは、「AからYへの所有権移転登記があった」ことまで積極的に主張するものであるのに対して(赤色部分)、
  • 下側のものは単に「Xが対抗要件を備える(XからAへの所有権移転登記の抹消登記、または、AからXへの抹消に代わる所有権移転登記)までは、Xへの所有権帰属を認めない」とする意思表明(権利主張)を行うだけである(青色部分)
という点に違いがある。再々抗弁の表題も、これを踏まえて、
  • 上側のものを「Yが対抗要件を具備したことにより、対抗関係にあるXが確定的に所有権を得られないことが確定した(いわゆる所有権喪失)」との趣旨を踏まえて、「対抗要件具備」とし、
  • 下側のものを「Xの対抗要件の欠缺を咎める」との趣旨を踏まえて、「対抗要件欠缺」
と表現してみた。

ところで、別の場面ではあるが、本稿で検討をしている「解除前の第三者」のほかに、「解除後の第三者」という場面がある。この解除後の第三者については、解除者と第三者との間は、対抗関係にあると理解されている。これを踏まえると、対抗関係説に立つ場合の再々抗弁は、以下のようになる(途中状態)。


変更となった箇所をみると、以下のとおりである。
  • 既存の「上記買受はXの解除に先立つ」との要件を並列するものとして、「上記買受はXの解除に遅れる」(黄色部分)を追加。両要素は、「且つ(and)」の関係ではなく、「又は(or)」の関係にあるので、これをBD上も示すため、これら両要素の間の線は、実線ではなく点線で示した。
  • 再々抗弁の表題は、解除前と解除後のいずれの場合にも対応する再々抗弁となったことを受けて、改題した。
ところで、第三者が取引関係に入ったことを前提とする限り、同取引がXによる解除前か解除後かは、いずれかは必ず認められる事象である。すなわち、「解除前または解除後」というのは、要件としては意味がないことになる。このため、解除前の第三者について対抗関係説に立つと、再々抗弁の要素のうち、中括弧で示した2つの事象は削除可能である。これを踏まえると、対抗関係説での再々抗弁は、以下のように圧縮されることになる。



なお、予備的抗弁「対抗要件欠缺」に対しては、それと両立する事実として、その後、Xが対抗要件を具備したという事実が、同予備的抗弁の効果を阻害する機能を営むので、再々抗弁となる。


このように、解除前の第三者について登記を権利保護要件とする見解に立つか、解除者との関係で対抗関係にあるとする見解かにより、BDの構造は異なるものとなる。

残された課題は、以下の点である。
  • 再々抗弁(権利保護要件説であれば解除の第三者・対抗要件欠缺、対抗関係説であれば対抗要件具備・対抗要件欠缺)は、いわゆる予備的抗弁に位置づけるべきか

(参考文献)
・司法研修所編「改訂 紛争類型別の要件事実」法曹会120~121頁
・岡口基一「要件事実マニュアル2」(第5版)ぎょうせい44~45頁