新民法545条1項(解除前の第三者)(1)所有権喪失の抗弁

新民法545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。



XがAに対して土地を売却したが、代金未払いにより売買契約を解除したものの、既に、同土地は、Aから事情を知らない第三者Yへと転売されていたため、XがYを被告として、土地の明け渡しをもとめたという事案を考える。

ここで、Xは、売買契約が既に解除されている以上、現在の所有者はXであるとの前提で、物上請求権としての明け渡し請求を請求原因として組むことが考えられる。この場合、BDは以下のようになる。



もっとも、この請求原因のうち「Xが甲土地を現所有」との部分については、被告Yとして、既にXが土地を売却して手放しているとの言い分(更には、AからYが買い受けているので、真の所有者はYであるとの言い分)を有していることからすると、Yは否認をすることになる。



この場合、「Xが甲土地を現在所有している」という法的評価を直接に立証することは困難であるから(事実は立証できるが、法的評価は立証できない)、何らかの事実関係へと要素を分解する必要がある。

ここで、Xの言い分は、「Xはかねてより甲土地の所有者であり、Y主張にかかるようなAへの売却によっては所有権を失っていない。」というものであり、Yの言い分は、「かつてXは所有者であったかもしれないが、Aに売却したことにより所有権を失った」と言い換えることができる。

そうすると、両者の言い分は、少なくとも、XとAとの間の売買契約の直前までは、「Xがもともとの所有者であった」という点で一致している。よって、両者の言い分が異なる点(XA間の売買契約によりXが所有権を失ったか否か)という事実を調べれば、現時点で、Xが土地所有者であるか否かが判断できることになる。

下記図で言えば、赤色がXの言い分であり、青色がYの言い分であるが、両者の言い分は途中までは一緒であり、言い分が異なる事実(XA売買)の有無を証拠で認定できれば、自動的に、現在、Xが甲土地の所有者であるか否かがわかる構造にある。(Yの言い分は、更にAY売買へと続くが、Xの所有権がなければ、口頭弁論終結時点で物上請求権も生じ得ないのであるから、AY売買まで判断する必要はない。)




これを踏まえると、BDは、以下のように仮置きできる。



旧請求原因と比べてみると、「Xが甲土地を現所有」という部分が、「Xが甲土地をもと所有」+「XがAに甲土地を売却していない」の二要素に分解されている。これにより、争いのある部分(すなわち証拠調べにより事実の有無が認定できる部分)が「XがAに甲土地を売却していない」に限定できそうである。



もっとも、ここで請求原因の「XはAに甲土地を売却していない」という要素は、消極的事実であるから、この逆事象「XはAに甲土地を売却した」を抗弁に回した方が主張立証責任が公平になる。(以下、「XがAに甲土地売却」と簡略表記するが、その実際の内容は、民法555条にあるとおり、「Xが甲土地の所有権をAに移転することを約し、Aがこれに対してその代金〇〇万円を支払うことを約した」である。)



そして、Xの言い分は、「確かにAと甲土地の売買契約はしたが、その後、契約を解除したので甲土地は失っていない」というものであるから、抗弁「XがAに甲土地売却(=XA間で売買契約が成立)」と両立し、かつ、その抗弁の効果(所有権喪失)を阻害する事実として、再抗弁(売買契約の解除)を位置づけることができる。



これに対して、Yは、「確かにXA間の甲土地売買契約は解除されたかも知れないが、Yは民法545条1項但書の第三者であるから、Yの権利は害されない」との言い分が可能であるから、再抗弁(売買契約の解除)と両立し、かつ、その効果を妨げる事実として、再々抗弁(解除前の第三者)を位置づけることができる。



残された課題は、以下の3点である。
  • 再抗弁(売買契約の解除)の具体的要素
  • 再々抗弁(解除前の第三者)の具体的要素
  • 再々抗弁(解除前の第三者)は、いわゆる予備的抗弁に位置づけるべきか

(参考文献)
司法研修所編「改訂 紛争類型別の要件事実」法曹会52~56頁、112~113頁、120~121頁