新民法545条3項(現物及び使用利益の返還請求)(1)
新民法545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
新民法546条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
新民法533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
XがYに対して土地を売却したが、代金未払いにより売買契約を解除し、土地の返還を求め、あわせて、土地の使用利益(Yへの引渡からXへ返還がなされるまでの間のYの使用利益)の返還を求めたという事案を考える。
この場合、訴訟物は以下の2個が存在する。
土地の返還請求権については、訴訟物としては2種類が考えられる(物権的請求権、債権的請求権)。
物権的請求権(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)を訴訟物とする場合、請求原因は以下のようになる。
仮に、Yの言い分が「Xから買い受けており、売買契約の解除は無効だから、返還すべき義務はない。」というものである場合は、どうなるか。この点、Xが現在(口頭弁論終結時)甲土地に所有権を有していなければ、物権的請求権は存在しないことになるから、XY間の売買契約によりXは所有権を喪失した旨を言えば、その目的(土地返還請求の棄却)は達せられる。
XとYとで、「XY間の売買契約成立の直前までは、Xに甲土地の所有権があった」との点は争いがない。よって、請求原因を以下のように変化させ、あわせて、Yの所有権喪失の抗弁を置くことにすれば、裁判所としては、売買契約の存否という事実の有無さえ確定すれば、「Xが甲土地を現在所有している」か否かを自動的に判断できるようになる。
本件では、Xの言い分は、「Yが代金を支払わないので売買契約を解除した」というものである。ここで、履行遅滞に基づく契約解除の要件(民法541条)については、新民法545条1項(解除前の第三者)(2)契約解除の要素を参照する。
また、「Yが代金を支払わない」というのは消極的事実であり、逆事象である「Yが代金を支払った」との事実をYに主張立証させればよい。
これらを踏まえると、全体のBDは、以下のようになる。
ここで、弁済の再々抗弁の内容はどうなるか。
催告後、相当期間が経過する前に債務の履行をすれば、解除はできない(新民法541条)。
また、同相当期間が経過した場合であっても、解除を受けるまでに、債務の履行(又はその提供)をすれば、解除はできない(現行民法につき大判大正6年7月10日民録23輯1128頁)。
よって、弁済の再々抗弁は、以下のように構成できる。
この弁済の再々抗弁は、2種類が存在するが両者を比較すると、時間的に「解除前に弁済」の方が要件が緩い。よって、この2つの再々抗弁は、「解除前に弁済」に統合できる。
(注:相当期間経過後から解除がなされる間に弁済をすることで解除を免れるためには、遅延損害金債務の履行も必要であるとの見解に立つ場合は、上記2つの再々抗弁の要素が異なるので(3000万円を支払った vs 3000万円および遅延損害金を支払った)、統合はできず、別途の再々抗弁として残る)
前払いと残金払いの組み合わせのケースでは、どうなるか。例えば、Yが前金1000万円をXに支払っており、残金2000万円の支払債務の履行遅滞による売買契約の解除がなされた事案を考える。
この場合、売買代金全部の支払いの履行遅滞による再抗弁に対しては、前金の支払いかつ残金の支払いの事実があれば、解除を免れることができるから、これら事実が再々抗弁となる。
前金1000万円の支払いについては争いがなく、残金2000万円についてのみ催告がなされて、売買契約全体の解除がなされた事案では、残金の支払いのみで売買契約の解除を免れることができるから、この場合の要件事実BDは、以下のようになる。
残金2000万円の支払に支払期限が付されていた事案では、どうなるか。
履行遅滞による売買契約の解除において、履行遅滞の要件を定める新民法412条は、確定期限がある場合(1項)、不確定期限がある場合(2項)、期限の定めが無い場合(3項)を各々独立の場面として、分けて履行遅滞の要件を定めている。
しかし、この条文を単純に用いると、期限の定めについて真偽不明の場合、1~3項のいずれの要件も充足しないという不都合が生ずる。
かかる不都合を避けるには、期限の定めがないことを前提として履行遅滞の積極要件を構成し、期限がある場合には、その旨を反対当事者に主張立証させる形に再構成すればよい。
これを前提とすると、Yが前金1000万円をXに支払っており、残金2000万円(支払期限あり)の支払遅滞による売買契約の解除事案は、以下のように整理される。
上記再々抗弁(期限の定め)は、売買契約の解除の意思表示より後の支払期限が合意されている場合に、再々抗弁を提出する実益がある。
なお、再々々々抗弁(黄色部分)の位置づけに関してであるが、解除を免れるためには、期限までに支払いをしたとの事実が必要であるとの見解に立つ場合は、再々抗弁において同事実主張を合わせ主張する構成となる。
以上が、弁済の再々抗弁についての検討である。
次に、同時履行の再々抗弁について検討をする。
新民法546条は、解除に基づく原状回復請求権は互いに同時履行の関係に立つことを規定するので、仮に、Yが前金1000万円をXに支払っており、かつ、売買目的物たる甲土地の返還請求権と前金の返還請求権とが同時履行の関係にたつとの見解に立てば、Yはこの同時履行の抗弁(本設例では、再々抗弁)を主張することができる。
(注:この同時履行の抗弁権は、売買契約の同時履行の抗弁権[所有権移転登記手続請求権と代金支払請求権]とは異なる)
(注:一般に、不動産の売買において、引渡と代金支払請求権は同時履行の関係にはない。新民法555条、560条。現行民法につき大判大正7年8月14日民録24輯1650号、最判昭和34年6月25日集民36号815頁)
この場合、再抗弁でXが催告しているのは、残金2000万円であるとすると、全体のBDは、以下のようになる(同設例では、Yは代金全額の支払いは主張していないとして、弁済の再々抗弁は省略した)。
以上が、物権的請求権(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)を訴訟物とする場合の要件事実の整理である。
これに対して、債権的請求権(売買契約の解除に基づく原状回復請求権としての目的物返還請求権たる土地地明渡請求権)を訴訟物とする場合はどうなるか。
この点、売買契約の解除を言う以上、売買があったこと及び解除の事実が要素として必要である。よって、請求原因の概要は、以下のようになる。
もっとも、売買契約をしただけでは、甲土地の占有がXからYへと移転しているとは言えないから(契約をしただけで未引渡ということもあり得る)、これも請求原因に追加すべきである(Yに抗弁として、「売買契約に基づく甲土地の引渡がなかった」との消極的事実を主張立証させるのは公平でない)。
また、解除の主張の具体的要素については、新民法545条1項(解除前の第三者)(2)契約解除の要素で検討したとおりである。
これを踏まえると、請求原因は、以下のようになる。
Yの言い分が、「代金は全額を支払った」というものである場合には、弁済の抗弁が成立する。
また、Yの言い分が、「前金をXに支払っていたから、それと引き換えでないと甲土地は返さない」というものである場合には、同時履行の抗弁権を主張することが考えられる。
土地の返還請求権(物権的または債権的)についての検討は、以上のとおりである。
使用利益の返還請求権については、別稿で検討をする。
(参考文献)
・加藤新太郎・細野敦「要件事実の考え方と実務」(第3版)民事法研究会81~82、133頁
・伊藤滋夫編著「新民法(債権関係)の要件事実Ⅱ」青林書院412~414頁
・岡口基一「要件事実マニュアル2」(第5版)ぎょうせい30頁
・司法研修所「改訂 紛争類型別の要件事実」法曹会104頁
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。
新民法546条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。
新民法533条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行(債務の履行に代わる損害賠償の債務の履行を含む。)を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。
XがYに対して土地を売却したが、代金未払いにより売買契約を解除し、土地の返還を求め、あわせて、土地の使用利益(Yへの引渡からXへ返還がなされるまでの間のYの使用利益)の返還を求めたという事案を考える。
この場合、訴訟物は以下の2個が存在する。
- 土地の返還請求権(物権的または債権的)
- 使用利益の返還請求権
土地の返還請求権については、訴訟物としては2種類が考えられる(物権的請求権、債権的請求権)。
物権的請求権(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)を訴訟物とする場合、請求原因は以下のようになる。
仮に、Yの言い分が「Xから買い受けており、売買契約の解除は無効だから、返還すべき義務はない。」というものである場合は、どうなるか。この点、Xが現在(口頭弁論終結時)甲土地に所有権を有していなければ、物権的請求権は存在しないことになるから、XY間の売買契約によりXは所有権を喪失した旨を言えば、その目的(土地返還請求の棄却)は達せられる。
XとYとで、「XY間の売買契約成立の直前までは、Xに甲土地の所有権があった」との点は争いがない。よって、請求原因を以下のように変化させ、あわせて、Yの所有権喪失の抗弁を置くことにすれば、裁判所としては、売買契約の存否という事実の有無さえ確定すれば、「Xが甲土地を現在所有している」か否かを自動的に判断できるようになる。
本件では、Xの言い分は、「Yが代金を支払わないので売買契約を解除した」というものである。ここで、履行遅滞に基づく契約解除の要件(民法541条)については、新民法545条1項(解除前の第三者)(2)契約解除の要素を参照する。
また、「Yが代金を支払わない」というのは消極的事実であり、逆事象である「Yが代金を支払った」との事実をYに主張立証させればよい。
これらを踏まえると、全体のBDは、以下のようになる。
ここで、弁済の再々抗弁の内容はどうなるか。
催告後、相当期間が経過する前に債務の履行をすれば、解除はできない(新民法541条)。
また、同相当期間が経過した場合であっても、解除を受けるまでに、債務の履行(又はその提供)をすれば、解除はできない(現行民法につき大判大正6年7月10日民録23輯1128頁)。
よって、弁済の再々抗弁は、以下のように構成できる。
この弁済の再々抗弁は、2種類が存在するが両者を比較すると、時間的に「解除前に弁済」の方が要件が緩い。よって、この2つの再々抗弁は、「解除前に弁済」に統合できる。
(注:相当期間経過後から解除がなされる間に弁済をすることで解除を免れるためには、遅延損害金債務の履行も必要であるとの見解に立つ場合は、上記2つの再々抗弁の要素が異なるので(3000万円を支払った vs 3000万円および遅延損害金を支払った)、統合はできず、別途の再々抗弁として残る)
前払いと残金払いの組み合わせのケースでは、どうなるか。例えば、Yが前金1000万円をXに支払っており、残金2000万円の支払債務の履行遅滞による売買契約の解除がなされた事案を考える。
この場合、売買代金全部の支払いの履行遅滞による再抗弁に対しては、前金の支払いかつ残金の支払いの事実があれば、解除を免れることができるから、これら事実が再々抗弁となる。
前金1000万円の支払いについては争いがなく、残金2000万円についてのみ催告がなされて、売買契約全体の解除がなされた事案では、残金の支払いのみで売買契約の解除を免れることができるから、この場合の要件事実BDは、以下のようになる。
残金2000万円の支払に支払期限が付されていた事案では、どうなるか。
履行遅滞による売買契約の解除において、履行遅滞の要件を定める新民法412条は、確定期限がある場合(1項)、不確定期限がある場合(2項)、期限の定めが無い場合(3項)を各々独立の場面として、分けて履行遅滞の要件を定めている。
しかし、この条文を単純に用いると、期限の定めについて真偽不明の場合、1~3項のいずれの要件も充足しないという不都合が生ずる。
かかる不都合を避けるには、期限の定めがないことを前提として履行遅滞の積極要件を構成し、期限がある場合には、その旨を反対当事者に主張立証させる形に再構成すればよい。
これを前提とすると、Yが前金1000万円をXに支払っており、残金2000万円(支払期限あり)の支払遅滞による売買契約の解除事案は、以下のように整理される。
上記再々抗弁(期限の定め)は、売買契約の解除の意思表示より後の支払期限が合意されている場合に、再々抗弁を提出する実益がある。
なお、再々々々抗弁(黄色部分)の位置づけに関してであるが、解除を免れるためには、期限までに支払いをしたとの事実が必要であるとの見解に立つ場合は、再々抗弁において同事実主張を合わせ主張する構成となる。
以上が、弁済の再々抗弁についての検討である。
次に、同時履行の再々抗弁について検討をする。
新民法546条は、解除に基づく原状回復請求権は互いに同時履行の関係に立つことを規定するので、仮に、Yが前金1000万円をXに支払っており、かつ、売買目的物たる甲土地の返還請求権と前金の返還請求権とが同時履行の関係にたつとの見解に立てば、Yはこの同時履行の抗弁(本設例では、再々抗弁)を主張することができる。
(注:この同時履行の抗弁権は、売買契約の同時履行の抗弁権[所有権移転登記手続請求権と代金支払請求権]とは異なる)
(注:一般に、不動産の売買において、引渡と代金支払請求権は同時履行の関係にはない。新民法555条、560条。現行民法につき大判大正7年8月14日民録24輯1650号、最判昭和34年6月25日集民36号815頁)
この場合、再抗弁でXが催告しているのは、残金2000万円であるとすると、全体のBDは、以下のようになる(同設例では、Yは代金全額の支払いは主張していないとして、弁済の再々抗弁は省略した)。
以上が、物権的請求権(所有権に基づく返還請求権としての土地明渡請求権)を訴訟物とする場合の要件事実の整理である。
これに対して、債権的請求権(売買契約の解除に基づく原状回復請求権としての目的物返還請求権たる土地地明渡請求権)を訴訟物とする場合はどうなるか。
この点、売買契約の解除を言う以上、売買があったこと及び解除の事実が要素として必要である。よって、請求原因の概要は、以下のようになる。
もっとも、売買契約をしただけでは、甲土地の占有がXからYへと移転しているとは言えないから(契約をしただけで未引渡ということもあり得る)、これも請求原因に追加すべきである(Yに抗弁として、「売買契約に基づく甲土地の引渡がなかった」との消極的事実を主張立証させるのは公平でない)。
また、解除の主張の具体的要素については、新民法545条1項(解除前の第三者)(2)契約解除の要素で検討したとおりである。
これを踏まえると、請求原因は、以下のようになる。
Yの言い分が、「代金は全額を支払った」というものである場合には、弁済の抗弁が成立する。
また、Yの言い分が、「前金をXに支払っていたから、それと引き換えでないと甲土地は返さない」というものである場合には、同時履行の抗弁権を主張することが考えられる。
土地の返還請求権(物権的または債権的)についての検討は、以上のとおりである。
使用利益の返還請求権については、別稿で検討をする。
(参考文献)
・加藤新太郎・細野敦「要件事実の考え方と実務」(第3版)民事法研究会81~82、133頁
・伊藤滋夫編著「新民法(債権関係)の要件事実Ⅱ」青林書院412~414頁
・岡口基一「要件事実マニュアル2」(第5版)ぎょうせい30頁
・司法研修所「改訂 紛争類型別の要件事実」法曹会104頁