新民法545条1項(解除前の第三者)(2)契約解除の要素

新民法545条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3 第一項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後に生じた果実をも返還しなければならない。
4 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

新民法541条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

新民法412条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。



XがAに対して土地を売却したが、代金未払いにより売買契約を解除したものの、既に、同土地は、Aから事情を知らない第三者Yへと転売されていたため、XがYを被告として、土地の明け渡しをもとめたという事案のBDの概要は、以下のとおりである。



再抗弁(売買契約の解除)の要素は、どうなるか。
新民法541条の要件をそのまま仮置きすれば、以下のようになる。(相当期間を20日と設定)



この要素について、以下の検討を加える。

  • 「Aが売買代金の支払債務を履行しなかった」、とある以上、その前提として、「Aの売買代金支払債務の発生」が必要と思われるが、同事実は具体的には、「売主X、買主Aとする売買契約の成立」であるところ、同事実は、抗弁(所有権喪失)にてあらわれているから、再抗弁の要素として記載する必要はない。
  • 履行遅滞による催告解除の要素として「Aが売買代金の支払債務を履行しなかった」という以上、売買代金支払債務の期限は到来していることが必要である。抗弁(所有権喪失)の内容を見る限り、期限の定めは特段記載されていないから(売買契約の成立について、代金支払債務の弁済期があることは契約成立の要件ではない。新民法555条=現行民法555条)、新民法412条3項により、期限の定めのない場合として、履行の請求を受けた時から、Aは遅滞の責任を負う。→「XはAに売買代金債務の履行の請求をした」を追加。
  • 「Aが売買代金の支払債務を履行しなかった」とあるが、これは消極的事実であり、逆事象である「履行の請求を受けて、Aは売買代金の支払いをした」ことを反対当事者(今回はAは訴訟当事者ではないので、反対当事者は被告たるY)に主張立証させるのが公平である。
  • 「同催告では、相当期間として20日を定めた」とあるが、判例では、催告に期間を定めなかった場合でも、催告から客観的に相当期間(例えば20日間)が経過すれば解除することができるとしており(最判昭和29年12月21日民集8巻12号2211頁)、同解釈は新民法でも同様と解される。→「同催告では、相当期間として20日を定めた」は削除。
  • 「催告期間内にAは売買代金を支払わなかった」とあるが、上述のとおり、催告から相当期間が経過すれば解除できるので、「催告から20日間が経過したが、Aは売買代金を支払わなかった」へと変更する。但し、「売買代金を支払わなかった」とあるのは消極的事実であるから、逆事象である「催告から20日間以内にAが売買代金の支払いをした」ことを反対当事者Yに主張立証させるのが公平である。
これを踏まえると、再抗弁(売買契約の解除)は、以下のようになりそうである(途中形態)。



もっとも、この変更後のBDを見ても、なお、以下の検討事項が考えられる。
  • 「XはAに売買代金債務の履行の請求をした」と「XはAに対し売買代金を支払うよう催告した」とは、内容が同じである。理屈上は、新民法412条3項の履行の請求をして、遅滞になり、その直後に、更に新民法541条の履行の催告をするという構造になるが、直後に同じ行動を重ねてする意味は薄いので、判例でも、ひとつの催告で、遅滞に付するための履行の請求と契約解除のための催告とを兼ねることができるとされている(大判大正6年6月27日民録23.1153)。→両要素をひとつに統合。
  • 抗弁(所有権喪失)で、売買契約の成立があらわれているから、売買代金支払債務だけでなく甲土地の所有権移転登記手続債務等も発生していることになる(新民法555条、560条)。この場合、法的には、売買代金支払債権に同時履行の抗弁権が作用している状態にある(新民法533条)。同時履行の抗弁権は、存在するだけで、履行遅滞の違法性が阻却する効果を生じているので、Xとしては、同阻却効果を阻害するため、例えば、「所有権移転登記手続きに必要な書類をAに交付した(履行の提供)」とか、「所有権移転登記手続は代金決済後1か月後とする合意があった(後履行の合意)」といった、同時履行の抗弁権の違法性阻却効果を阻害するような事実も、再抗弁(売買契約の解除)の要素として主張する必要がある。
  • 再々抗弁に、ほぼ同じ内容の弁済の抗弁が2つある。下段の再々抗弁の方が時間的に後であり、時系列上は多くの事象(より長い期間の時間経過)を含んでいるといえるので、上段のものは下段に統合すれば足りる。(なお、本件ではAの弁済の事実がないので、Yも同事実を主張しないものと考え、以下のBDでは省略する)

これを踏まえると、再抗弁(売買契約の解除)は、以下のようになる。



この結果、BDの全体概要は、以下のようになる。



残された課題は、以下の2点である。
  • 再々抗弁(解除前の第三者)の具体的要素
  • 再々抗弁(解除前の第三者)は、いわゆる予備的抗弁に位置づけるべきか

(参考文献)
司法研修所編「改訂 紛争類型別の要件事実」法曹会11~13頁