新民法543条(債権者の責めに帰すべき債務不履行)

新民法543条 債務の不履行が債権者の責めに帰すべき事由によるものであるときは、債権者は、前二条の規定による契約の解除をすることができない。

新民法611条 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった
場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料
は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。
2 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合におい
て、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、
契約の解除をすることができる。



建物賃貸借契約において、賃貸人の不始末により、建物使用が当面できなくなったため、賃借人Yが賃料の支払いを当面は停止する旨を宣言したという事案を考えてみる。

賃貸人Xが、賃貸借契約終了を原因とする建物返還請求権を訴訟物として、訴えを提起するとした場合、賃料の支払は賃借人の義務であるから、その全部の履行を拒絶する意思を明確に表示した場合は、無催告解除(542条1項2号)の請求原因を主張し得る。

他方、催告解除(541条)や無催告解除(542条)の要件を満たす場合でも、債務の不履行が債権者により招来された場合には、新民法543条により、債権者による契約解除の効果は阻害されるから、催告解除や無催告解除を請求原因とする請求について、新民法543条の事実は、抗弁として機能する。

よって、両当事者の言い分は、以下のとおり整理される。




注: 伊藤編「新民法(債権関係)の要件事実Ⅱ」青林書院411~412頁では、帰責性に言及しない失火による建物焼失(むしろ抗弁で債権者たる賃貸人の帰責事由であると判明)を請求原因に掲げるが、これが債務者=被告たる賃借人の債務(賃料支払義務、賃借物の適切な保管義務)の債務不履行[履行不能]に該当する事実と言えるのか、疑義がある。建物の使用不能は、通常は、賃貸人側の負う義務(賃貸物を賃借人に使用させる義務)の履行不能状態だからである。