新民法536条2項(雇用契約に基づく既労働分の賃金請求)

新民法536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

新民法624条の2 労働者は、次に掲げる場合には、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 使用者の責めに帰することができない事由によって労働に従事することができなくなったとき。
二 雇用が履行の中途で終了したとき。



労働者が労働期間の途中で怪我をしたため、以後、労働できなかった場合、既にした労働分の割合に応じて報酬を使用者に請求する事案の請求原因を考える。

労働者は、労働を終えた後でなければ使用者に対して報酬を請求できないのが原則であるが(民法624条)、新民法624条の2は、途中で労働者の労務提供がなくなった場合でも、履行の割合に応じた報酬が得られるとの特則を定める。そこで、仮に、新民法624条の2第1号の条文通りに要件を置くと、以下のとおりになる。



もっとも、上記請求原因のうち「労働に従事できなくなったことにつきY社に責めなし」については、仮に、「Y社に責め有り」との場合であっても、新民法536条2項によって、労働請求権の債権者Y社は、反対給付たる賃金支払債務の履行を拒めない。

すなわち、「労働に従事できなくなったことにつきY社に責めなし」に替えて、「Y社に責め有り」とした場合でも、請求は認められる。このため、両事象は、選択的な請求原因(OR で連結される関係)とも構成し得そうである。



しかし、この両事象は、互いに他の事象の余事象であり、両事象のいずれかは必ず成立するから、両事象をOR で連結した部分(すなわち全事象)を、独立の絞り込み要件として、請求原因に残す実益がない。



よって、修正後の請求原因は以下のようになる。