新民法536条2項(請負契約に基づく既工事分の報酬請求)

新民法536条 当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができる。
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。

新民法634条 次に掲げる場合において、請負人が既にした仕事の結果のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分を仕事の完成とみなす。この場合において、請負人は、注文者が受ける利益の割合に応じて報酬を請求することができる。
一 注文者の責めに帰することができない事由によって仕事を完成することができなくなったとき。
二 請負が仕事の完成前に解除されたとき。



請負工事が中途で打ち切られた場合、請負人Xが、既にした工事分の出来高割合に応じた工事報酬を、注文主Yに請求する事案の請求原因を考える。

請負人は、請け負った仕事全体を完成させなければ注文主に対して報酬を請求できないのが原則であるが(民法632、633条)、新民法634条は、請け負った仕事が途中で打ち切られた場合でも、履行の割合に応じた報酬が得られるとの特則を定める。そこで、仮に、条文通りに要件を置くと、以下のとおりになる。



もっとも、上記請求原因のうち「仕事完成が不能となったことにつき注文主Yに責めなし」については、仮に、「注文主Yに責め有り」との場合であっても、新民法536条2項によって、仕事完成請求権の債権者Yは、反対給付たる報酬支払債務の履行を拒めない。

すなわち、「仕事完成が不能となったことにつき注文主Yに責めなし」に替えて、「注文主Yに責め有り」とした場合でも、請求は認められる。このため、両事象は、選択的な請求原因(OR で連結される関係)とも構成し得そうである。



しかし、この両事象は、互いに他の事象の余事象であり、両事象のいずれかは必ず成立するから、両事象をOR で連結した部分(すなわち全事象)を、独立の絞り込み要件として、請求原因に残す実益がない。



よって、修正後の請求原因は以下のようになる。



このうち、「既工事部分は、残工事部分と可分」については、請求原因の他の要素(請負契約の仕事の内容、進捗率6割までの仕事内容)の記載によって、可分性が現れている場合もあるので、あえて別途記載する必要がないこともある。これを更に進めて、類型的に、建物の工事未完成の場合には、仕事が原則として可分であるとして、「既工事部分と残工事部分とは不可分」との主張を抗弁に位置づける見解もある。同見解によれば、再修正後の請求原因及び抗弁は、以下のようになる。



また、「既工事部分の給付により、Yは利益を受ける」については、その利益額を、報酬4000万円の仕事の6割である2400万円としていることが、請求原因の他の要素(請負契約、進捗率)の記載によって現れているので、あえて別途記載する必要がないこともある。これを更に進めて、類型的に、建物の工事未完成の場合には、既仕事により注文主が受ける利益の額は原則として総報酬額に進捗率を乗じた額であるとして、既工事部分の注文者にとっての利益額がこれよりも低い場合には、抗弁にてその具体的事実を注文主に主張させれば良いとする見解もありえる。同見解によれば、再修正後の請求原因及び抗弁は、以下のようになる。


この抗弁(残工事)は、総報酬額4000万円から残工事見積額2000万円を控除した残額2000万円が、既工事部分給付により注文主Yが利益を受ける額となるとの言い分であり、Xの請求額2400万円との関係では、400万円について減額となる言い分であるから、一部抗弁となる。