新民法533条(売買代金の遅延損害金請求)
新民法575条 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。
2 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。
新民法412 条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
新民法419条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
575条2項に基づき仮置きすると、以下のとおりとなる。

412条1項(確定期限の場合)に基づき仮置きすると、以下のとおりとなる。

遅延損害金説では、両者の要件を足し合わせたものを要件事実と考える。同じ色のものは、ほぼ同じ事象を指しているので、足し合わせる際には、より広い事象事実を用いればよい。例えば、赤色グループのものをみるに、
については、合体後は、広い事象である「売買契約の成立」に統一すればよい。同様に、緑色の
は同じものであり、「代金支払に確定期限あり」と統一し、
も広い事象である「代金支払期限の到来(経過)」に統一すればよい(時間軸上「経過」の方が「到来」よりも広い事象であるため)。最後に、
は、一見異なる事象に見えるが、損害額の計算は、
\[売買代金元金額×年利率×\frac{経過日数}{365日}\]
で求められるところ、売買代金元金額は請求原因の他の要素(売買契約の成立)により与えられるから重複して摘示する必要はなく、年利率については、新民法419条により、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率(新民法404条)となるから、遅滞となった以降の経過日数が分かれば損害額は計算ができるという点で、同じ事象を指しているので、「代金支払期限後かつ売買目的物引渡後の経過日数」として統合できる。
この同一事象の統合の際、請求原因で既にあらわれている事象については、抗弁や再抗弁で同じ事象を置くことはしないので、以下のとおり、統合後の置き場所は自ずから定まる。

ここで、ひとつ問題が生ずる。新請求原因に「売買契約の成立」を置いたことにより、本来、必要である「売買代金債権の発生」のみならず、余計な事象「目的物引渡債権の発生(同時履行関係のある反対債務の発生)」も、412条1項の抗弁から新請求原因へと移動してきている(いわゆる「避けられない不利益陳述」)。
両債務が併存する状態では、代金支払債権に、同時履行の抗弁権が作用することが法的評価として自明である(いわゆる「同時履行の抗弁権の付着」)。
そして、この同時履行抗弁権は、具体的な抗弁権の行使がなくても、代金支払債権が履行遅滞にあると言えなくさせる効果がある(いわゆる「同時履行の抗弁権の存在効果」)。この点、元金請求を拒み引換給付判決を得るには、同時履行の抗弁権を有する当事者がこれを行使することが必要であるが(大判昭和10年2月19日新聞3816号7頁。いわゆる同時履行の行使効果)、存在効果はこれとは異なる効果である。
すなわち、履行遅滞を言うための請求原因が、このままでは失当となる(履行遅滞と言えない)。
かかる問題を解消するためには、同時履行の抗弁権の効果を阻害するような事実、すなわち412条1項の再抗弁「反対債務の履行(の提供)」(上記ブロック・ダイアグラムの青色部分)をも請求原因の要素に一緒に含めてしまえばよい(いわゆる「せりあがり」)。このようにすることで、同時履行の抗弁権が作用しない形になり、請求原因として安定が得られた。
なお、412条1項(確定期限)、2項(不確定期限)、3項(期限の定めなし)の三分割構造をそのまま要件事実とすると、履行期限の有無が真偽不明となった場合に、いずれの履行遅滞も認められなくなるという不具合があることから、3項を統一的な原則形態とし(催告をしたことが請求原因)、期限の定めを抗弁に配置する考え方もあるが、本稿では検討を割愛する。
(参考文献)
・伊藤滋夫編著「新民法(債権関係)の要件事実Ⅱ」青林書院385頁
2 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。
新民法412 条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した後に履行の請求を受けた時又はその期限の到来したことを知った時のいずれか早い時から遅滞の責任を負う。
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。
新民法419条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、債務者が遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
575条2項に基づき仮置きすると、以下のとおりとなる。

412条1項(確定期限の場合)に基づき仮置きすると、以下のとおりとなる。

遅延損害金説では、両者の要件を足し合わせたものを要件事実と考える。同じ色のものは、ほぼ同じ事象を指しているので、足し合わせる際には、より広い事象事実を用いればよい。例えば、赤色グループのものをみるに、
- 売買契約の成立
- 履行すべき債務[売買代金請求権]の発生
- 同時履行関係のある反対債務[売買目的物引渡請求権]の発生
については、合体後は、広い事象である「売買契約の成立」に統一すればよい。同様に、緑色の
- 代金支払期限あり
- 確定期限
は同じものであり、「代金支払に確定期限あり」と統一し、
- 代金支払期限到来
- 確定期限の到来(経過)
も広い事象である「代金支払期限の到来(経過)」に統一すればよい(時間軸上「経過」の方が「到来」よりも広い事象であるため)。最後に、
- 引渡し以降の経過日数
- 損害の発生とその数額
は、一見異なる事象に見えるが、損害額の計算は、
\[売買代金元金額×年利率×\frac{経過日数}{365日}\]
で求められるところ、売買代金元金額は請求原因の他の要素(売買契約の成立)により与えられるから重複して摘示する必要はなく、年利率については、新民法419条により、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率(新民法404条)となるから、遅滞となった以降の経過日数が分かれば損害額は計算ができるという点で、同じ事象を指しているので、「代金支払期限後かつ売買目的物引渡後の経過日数」として統合できる。
この同一事象の統合の際、請求原因で既にあらわれている事象については、抗弁や再抗弁で同じ事象を置くことはしないので、以下のとおり、統合後の置き場所は自ずから定まる。
- 新請求原因に「代金支払に確定期限あり」があるので、575条2項の抗弁「代金支払期限あり」は、既に請求原因に現れた事項と重複するものとされ、抗弁からは消滅。
- 新請求原因に「代金支払期限の到来(経過)」があるので、575条2項の再抗弁「代金支払期限到来」は、既に請求原因に現れた事項と重複するものとされ、再抗弁からは消滅。
- 新請求原因に「代金債務発生(売買契約の成立)」があるので、412条1項の「同時履行関係のある反対債務[目的物引渡債務]の発生」(これも摘示は「売買契約の成立」で同じ)は、既に請求原因に現れた事項と重複するものとされ、抗弁からは消滅。

ここで、ひとつ問題が生ずる。新請求原因に「売買契約の成立」を置いたことにより、本来、必要である「売買代金債権の発生」のみならず、余計な事象「目的物引渡債権の発生(同時履行関係のある反対債務の発生)」も、412条1項の抗弁から新請求原因へと移動してきている(いわゆる「避けられない不利益陳述」)。
両債務が併存する状態では、代金支払債権に、同時履行の抗弁権が作用することが法的評価として自明である(いわゆる「同時履行の抗弁権の付着」)。
そして、この同時履行抗弁権は、具体的な抗弁権の行使がなくても、代金支払債権が履行遅滞にあると言えなくさせる効果がある(いわゆる「同時履行の抗弁権の存在効果」)。この点、元金請求を拒み引換給付判決を得るには、同時履行の抗弁権を有する当事者がこれを行使することが必要であるが(大判昭和10年2月19日新聞3816号7頁。いわゆる同時履行の行使効果)、存在効果はこれとは異なる効果である。
すなわち、履行遅滞を言うための請求原因が、このままでは失当となる(履行遅滞と言えない)。
かかる問題を解消するためには、同時履行の抗弁権の効果を阻害するような事実、すなわち412条1項の再抗弁「反対債務の履行(の提供)」(上記ブロック・ダイアグラムの青色部分)をも請求原因の要素に一緒に含めてしまえばよい(いわゆる「せりあがり」)。このようにすることで、同時履行の抗弁権が作用しない形になり、請求原因として安定が得られた。
なお、412条1項(確定期限)、2項(不確定期限)、3項(期限の定めなし)の三分割構造をそのまま要件事実とすると、履行期限の有無が真偽不明となった場合に、いずれの履行遅滞も認められなくなるという不具合があることから、3項を統一的な原則形態とし(催告をしたことが請求原因)、期限の定めを抗弁に配置する考え方もあるが、本稿では検討を割愛する。
(参考文献)
・伊藤滋夫編著「新民法(債権関係)の要件事実Ⅱ」青林書院385頁
・加藤新太郎、細野敦著「要件事実の考え方と実務」(第3版)民事法研究会40~42頁
・岡口基一「要件事実入門」創耕舎73頁